1928年7月13日、再び訪れたニューヨークを発った西山哲治(惁治)は大西洋を横断してプリマスに上陸、ロンドンを経てパリへ行き、リヨン駅から南仏へ鉄道の旅。
八月一日(水) 朝は三フランで五分間にパン、ココアなどたべる。晝は十五分間にコーヒー、サンドウイツチ(食堂車なし)などたべた。隣の陸軍少佐が二ツ目の驛で下車せよと教へてくれた。アメリカの旗を立てゝ恩人アリス女史が驛まで來てくれてゐたとのこと。面會出來ないで一足先に自動車で小丘の上の別莊へつく。伊太利人夫婦に案內されて二階へ上る。自分の宿る部屋へ荷物を運ばせて浴室でからだをふき汗のじゆばんを取かへ服をかへてゐたら、アリス女史の聲「來てくれ」と。直ちに下へ降りて行つた。十八年ぶりの恩人八十六歲の老女史の手をとる、ホツペタにキツスされた。ポーチへ出て直ちにお茶、菓子をたべる。間もなくコーヒーやブドウ酒も出る。つきせぬ話に十時過ぎまで市內の平和なニースを一眸の下に眺めつゝ語る。明日は十時までねるといつて。(註1)